私好みの新刊 201810

『クルミの森のニホンリス』 福田幸弘/写真  ゆうきえつこ/文 小学館

著者は,長野県八ヶ岳でクルミを食べるリスの姿を6年間追い求めた。この本は

その記録写真をもとにしたリス物語である。リスの生活をこれだけリアルにとらえ

ている本は他にあまりない。

 まずは,クルミを両手で持ったリスの顔がどんと迫ってくる。まるで「これが俺

の食べ物だよ」といわんばかり,クルミを器用に両手につかんで食べているおなじ

みの姿も登場する。次は,クルミの実をもぎ取ろうとしている写真。リスはクルミ

の実を一つ一つもぎ取るのではなしに,10個ほどの実の付いた房を根元からかみ切

っている。これはなかなか難しい。すぐに房ごと下に落としてしまうからだ。クル

ミの実を房ごと口にくわえて得意そうなリスの姿が写し出される。しかも,たくさ

んのクルミの実をくわえて太い幹を駆け下りるかと思えば隣の木に大きくジャ〜ン

プ,リスにこんなに飛翔力があったのかと驚かされる。クルミの食事場面もくわし

い。木の枝にまたがり,一房に56個はついているクルミをていねいに食べていく。

その食べ方もなかなか手の込んだもの,クルミを回しながら下の歯で削って二つに

割り,それをうまく重ねて上から食べていく。なかなか合理的だ。

秋になると,根本に落ちているクルミを口にくわえてうろうろするリスの姿があ

る。いったいどうしたというのだろうか。次頁をめくるとその謎が解ける。リスは

前足で盛んに落ち葉をかき分け穴を掘っている。冬に備えてのクルミ備蓄作戦である。

備蓄作戦は土に埋めるだけではなく,木の股や割れ目,洞などにクルミを入れていく。

リスの秋はこうして忙しく暮れていく。やがて雪の季節がやってくる。リスは木の

洞などでじっとしているのかと思ったら,リスには恋の季節でお相手探しに必死の

ようだ。枯れ木を使っての巣作りも大変。ても,春になると子どもたちも独り立ち

して賑やかな森となっていく。クルミの森を通して,リスの生きていく姿がとても

鮮明に写し出されている。見ていて楽しい本である。   

         20186月 1,500

『虫のしわざ探偵団』  新開孝/写真・文   少年写真新聞社   

 ページ初めに「団長からみなさんへのメッセージ」と題して「この本では,みな

さんが〈虫のしわざ探偵団〉になって、〈しわざ〉とそのヌシを、いっしょに探しま

す。」とある。いわばこの本は,著者と一緒になって虫の〈しわざ〉のヌシを探して

いこうというスタイル。この本にある〈しわざ〉をまず見つけ,その後,その〈しわ

ざ〉のヌシを観察するという手順になっている。住宅近くの屋敷林や,果樹園,雑

木林が調べる場所になっている。都会なら,ちょっとした公園も調査範囲になるだ

ろう。

 ページをくると,木の葉についた〈しわざ〉が次々と出てくる。まずは「クズの葉

についたしわざ」,葉の端からかじっていったあとや,葉に先をちぎってうまくぶら

下げているもの,かと思えば葉の一部をスケスケにして透き通った部分をつくってい

る〈しわざ〉などが出てくる。いずれもよく見かける〈しわざ〉だ。一体ヌシはだれ

だろう。ページをめくるとそれらのヌシが紹介されている。〈しわざ〉のヌシは,お

もに体長数ミリの小さな虫だが,中には葉っぱをかじって隠れ屋をつくる粋なチョウ

の幼虫もいる。次はアサガオの葉っぱの〈しわざ〉。「〈しわざ〉のヌシは、南の島か

らやって来た!」とある。小さくてもなかなか複雑な体形の虫だ。ぜひ,探してみた

くなる。続いてハムシの〈しわざ〉コレクション。ハムシはいろんな葉に穴を空けて

いる〈常習犯〉,ハムシと言っても姿形はさまざま。次は「〈切りぬきの達人〉ハキリ

バチ」が登場する。ハキリバチは竹筒など狭い空洞に葉っぱカプセルを作って蜜や花

粉を集める。さらに,笹のはっぱに一列に並んだ穴の〈しわざ〉が出てくる。いずれ

も巻いた若葉をかじるバッタの仲間の仕業。笹の葉の〈しわざ〉コレクションも多い。

そのほか,桜の葉っぱの穴ぼこ〈しわざ〉ヌシ捜しなど,よく見かける〈しわざ〉ヌ

シ探しがたくさん出てきて楽しめる。最後に探偵団向けに観察道具の紹介もある。 

       20185月 1,500 

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